柴那典が“熱狂の背景”に迫る
2015年1月10日、BABYMETALによるワンマン公演「LEGEND “2015” ~新春キツネ祭り~」が、さいたまスーパーアリーナにて開催された。
過去最大規模となったこの日の公演の動員数は約2万人。印象的だったのは、欧米人のファンの姿もちらほらと見かけたこと。この日の公演は海外向けのチケットも販売しており、おそらくアメリカやヨーロッパのダイハードなファンが駆けつけたのだと思われる。海外のメタルフェスへの参加やワールドツアーを経て大きな躍進を遂げた2014年のBABYMETAL。その成果はこんなところにも表れていた。
それにしても、なぜBABYMETALはここまでの現象を巻き起こしたのだろうか? 「メタルとアイドルの融合」をコンセプトに掲げたグループは、なぜ国境を超え、言葉の壁を超え、ジャンルの枠組みを超えて、世界中に熱狂を巻き起こしつつあるのか? 今回の記事は、さいたまスーパーアリーナのライヴの模様からその理由に迫っていこう。
開演前からアリーナ、スタンドはぎっしりと埋まり、赤いサイリウムがそこかしこで光っている。SEにはメタリカ、ジューダス・プリースト、アンスラックス、メガデス、アーチ・エネミーなどヘヴィメタル王道の名曲の数々が流れ、そのたびに歓声が上がる。
暗転と共に始まったのは、荘厳な音楽に乗せて「世はカオスの時代 世界中の人々がメタルの魂を失いかけていた2014年 BABYMETALはキツネ様の教えに従い 再びメタルの魂に火をつけ メタルで世界をひとつにするという使命を背負い 異国の地へと旅立った」――というナレーションが響くオープニング映像。背後にはヨーロッパの城塞のようなセットが組み上げられ、左右に朱色の太鼓橋が配されている。さらには頭上から降りてきた同じく朱色の橋がアリーナ中央のセンターステージへの架け橋となるという、かなり豪華なステージセットだ。
BABYMETALのライブの大きな特徴の一つは、この大仰で神話的な演出にある。今回にかぎらず、彼女たちのワンマンライブは基本的にシアトリカルな物語の一幕として構成されている。SU-METAL、YUIMETAL、MOAMETALの3人はメタルの魂を世界中の人々に呼び覚ます「メタルレジスタンス」という伝説の主役であり、オーディエンスもその目撃者であり登場人物である――というストーリーが進んでいく。だからこそ、実質的には1stアルバム『BABYMETAL』の収録曲を中心にした10数曲しか持ち歌がないユニットであるにもかかわらず、毎回、そのライブは見逃せない新たな要素が生まれるわけだ。
しかもメジャーデビューを果たした2013年の初頭まではまだ架空の物語、フィクションだったそのストーリーは、そこから徐々に現実と交わり始めた。まずはフェスへの出演を契機に「メタル四天王」とされるメタリカ、スレイヤー、メガデス、アンスラックスとの共演も実現。楽屋でメンバーと一緒に撮った写真もSNSで発信された。さらに新曲「Road of Resistance」ではイギリスのメタルバンド、Dragon ForceのSam TotmanとHerman Liとのコラボも実現した。つまり、今のBABYMETALのストーリーは海外のメタル界の大物も巻き込んだ「現在進行形の伝説」となりつつあるわけだ。
そして、BABYMETALのライブで最も強く印象に残るのは、その音楽としての圧倒的なクオリティだ。SU-METALの歌声は、あれだけの爆音をバックにしながらもパワフルかつ清らかに響く。演奏は「神バンド」と呼ばれるメンバーが担い、迫真のプレイを繰り広げる。超絶なソロを見せる場面も多数。楽曲についても、様々なメタルへのオマージュを詰め込み、いわゆる捨て曲のようなものを一つも作らないプロデューサーKOBAMETAL氏の気概が満ちている。
この日のステージも1曲目「メギツネ」から本編ラスト「イジメ、ダメ、ゼッタイ」まで、あっという間に感じられるような展開。MCは相変わらずないものの、「さいたまスーパーアリーナ、スクリーム!!」などと観衆を煽る場面が増え、2万人が一体となる瞬間が多数あった。終始異様な熱気に包まれていた。
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「紅月-アカツキ-」や「悪魔の輪舞曲」のようなSU-METALの歌唱力を活かしたエモーショナルな曲、「おねだり大作戦」や「4の歌」のようにYUIMETAL&MOAMETALをフィーチャーしたキュートでラウドな曲と、実は一辺倒ではなくバリエーション豊かな楽曲がセットに並ぶことも、BABYMETALの持つ魅力の源泉になっている。この日の序盤に披露されたタイトル未定の新曲は、「ギミチョコ!!」に通じるテイスト。ドラムンベースのリズムを活かしたハードコアかつ疾走感あふれるサウンドは、同曲を提供したTAKESHI UEDAが率いていたTHE MAD CAPSULE MARKETSの名曲「Midi Surf」あたりに通じるものも感じる。
そして、アンコールの最後に披露されたのは、もう一つの新曲「Road of Resistance」。昨年11月のロンドン公演で初披露されたばかりのこの曲は、すでに巨大なメタルアンセムになっていた。途中からは客電がつき、明るくなったフロアで2万人の「Wow?」という大合唱。そして「We are!?」「BABYMETAL!」のコールアンドレスポンスで終了。2時間に観たない公演時間だったが、大きな満足感と共に帰途についたファンがほどんどだろう。
BABYMETALのブレイクの理由について「アイドルとメタルの融合という斬新なコンセプトが受けた」という風な語られ方をすることがある。それはそれで間違ってないのだが、おそらく、あのライブを観た人は全員わかってると思う。本当の理由はコンセプトの新しさそのものじゃなく、そのワン&オンリーな方法論を徹底的に突き詰めたことにある。そこにこだわりの強いメタルファンが納得し熱狂するだけの内実があったからこそ、国境を超えて波及していったのだ。
そして、BABYMETALの「メタルレジスタンス第三章」はまだまだ続く。5月にはアメリカで開催されるフェス「ROCK ON THE RANGE」にジューダス・プリースト等と出演予定。再びのワールドツアーも行われ、6月には過去最大規模となる幕張メッセ展示ホールでのライブも決定した。さらに、この日の模様は、3月にWOWOWにて放映される予定だ。
今のBABYMETALが描き出そうとしている「現在進行形の神話」の先行きは、やはり見逃せないものになるだろう。
(取材・文=柴那典/Photo by Taku Fujii / MIYAAKI Shingo)
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BABYMETALはなぜ「現在進行形の神話」となり得たか? さいたまスーパーアリーナ公演を分析
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