BABYMETALなぜ海外で人気?カワイイ文化から生まれたメタルユニットとしての評価

MusicVoice 2014年11月29日(土)12時25分配信
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 今年の第65回NHK紅白歌合戦への初出場が期待されていたアイドルグループがいる。BABYMETAL(ベビーメタル)だ。発表数日前には、NHK総合で特集番組(12月21日深夜)が放送されるということがニュースとなっていたために更に期待が高まっていた。しかしながら26日発表の出場歌手には名前は載っていなかった。
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 BABYMETALは、アイドルとメタルを融合した異色のスタイルで海外で人気に火がついた。国内でも急速に注目を集めたが、それも最近の話で、ガガのツアー参加がきっかけではないかと思われる。突如として現れた感が強く、さくら学院の派生ユニットとして生まれた事もファンはともかく、世間一般的にはあまり知られていない。
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 なぜ、彼女たちが海外に受け入れられているのか。その一つの要因に、欧州などにおける日本の「カワイイ文化」や「ポップカルチャー」の浸透にある。日本で報じられている“アイドル”という枠組みとは異なり、海外ではカワイイ文化から生まれたメタルユニットとしての評価が高いのである。
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きっかけはユーチューブ

 まずここで、彼女たちの活動を振り返ってみたい。BABYMETALは2010年に女性アイドルグループ「さくら学院」の派生ユニットとして結成した。テーマに「アイドルとメタルの融合」を掲げ「世界征服」を目標としていた。彼女たちが海外で注目を集めるようになったきっかけはユーチューブだった。

 2011年発表のインディーズデビュー曲「ド・キ・ド・キ☆モーニング」をユーチューブに載せたところ海外でにわかに話題に。そして今年2月発表の「ギミチョコ!!」(ライブミュージック映像)で爆発な人気を得た。同映像における11月28日時点での再生数はなんと1800万回を超え、コメント数も3万3千件以上。そのほとんどが海外ユーザーからのコメントで、彼女たちの斬新なパフォーマンスを評価するものだった。

 この映像は一般リスナーだけでなく、海外の著名アーティストからも好評を集め「日本のカワイイアーティストがメタル」と拡散。あのレディー・ガガから届いたライブ出演オファーもこのユーチューブがきっかけである。

 ちなみに「ド・キ・ド・キ☆モーニング」(2011年公開、Edit ver.)は再生数220万回(11月20日現在)を超え、コメント数は4200件以上。その後に公開されたフルバージョンの再生数も460万回(11月20日現在)を超え、コメント数は5490件と伸びている。


1年も満たずに海外でブレイク

 2012年には夏フェスの代表格『SUMMER SONIC 2012』に同イベント史上最年少で初出演。その後も国内でのライブ活動に注力した。海外での初公演は2012年11月の『Anime Festival Asia Singapore 2012』であった。その翌年1月に、ミスチルやゆずなどが所属するトイズファクトリーからメジャーデビュー。海外初の単独公演は2013年12月で場所はシンガポール。つい1年前のことである。
そして2014年3月に行った自身初の日本武道館公演で今後は「海外武者修行」に出ると宣言した。

 以降は海外展開を加速させる。今年7月にはフランス、ドイツ、イギリス、アメリカ、日本を巡るワールドツアーを開始。同月には英国最大のロックフェス『Sonisphere Festival UK』に出演。
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7月中旬には英メタル誌の「METAL HAMMER」が主催したネット投票企画『HEAVY METAL WORLD CUP』に日本代表として選ばれ優勝。
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そして、レディー・ガガのライブツアーにオープニングアクトとして参加し、カナダ最大級のヘビーメタルの祭典『HEAVY MONTREAL』にも出演した。
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 また、米国で販売された海外アルバムをランキング化した、全米ビルボードチャートの「World Albums」部門で、ファーストアルバム『BABYMETAL』が1位を獲得。同部門にはこれまで27週にわたってランクインしており、前週9位から大幅にランクアップし、遂に首位を獲得したのだ。

 前記の通り、海外で注目されるようになったきっかけは2011年のデビュー曲ではあるが、爆発的な人気は今年2月の楽曲。そして海外での本格的なライブ展開は今年7月からだ。確かにユーチューブでの爆発的な人気で手ごたえは感じていたものの、ライブともなると別物である。しかし、ふたを開けてみれば海外ライブは軒並みソールドアウト。しかも1年も満たずにだ。この急速な拡大はあまり類をみない。

アイドルの先入観を取り払うメタルの表現力

 さて、「アイドル」と一般に分類されていると、それだけである種のフィルターがかかってしまう。先入観からか、アイドルだから音楽的には別物といったキライであろうか、どうしてもステレオタイプな感受に、まず最初に囚われてしまいがちだ。
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 少なくとも筆者はその1人で、BABYMETALを初めて聴く以前に「アイドルグループ」という前知識があり、先入観が頭を支配していた。フィルターを通した状態、いわば「不公平な観点」で最初に聴いたのは事実だ。

 そのような中で最初に飛び込んでくる彼女らの印象は少々違った。若い娘のハツラツとしたアクション、考える時間を与えずにダイレクトに伝わってくる歌、そしてとにかく溢れんばかりのエネルギー。キラキラとした、生命の息吹を感じる。

 これらはアイドルが「アイドルである」条件とも言える。だが彼女たちの場合はここに疑問符が付く。メタルというコンセプトが先入観としてあったが、演奏を聴いて「アレ?」となる。最良の意味での違和感と疑問が生じるのだ。「アイドル」という括りの異質感、違和感とも言うべきか。

 可愛らしくもポップで力強いダンスに添うのは、本意気で演奏されるゴリゴリのメタル。脳震盪の一歩手前のノリでアウトプットされる程の音楽的迫力を想像頂きたい。敬意に値するほどの演奏力、メタル音楽の表現力、ライブでの生演奏、ステージング。BABYMETALのサウンドを担う演奏陣からは隙が見当たらない。

メタルへの挑戦か、それとも敬意か

 従来の「メタル」の概念は、70年代のオジーオズボーンを初めとするメタルミュージシャンが培ったメタルの世界観と歴史的にある。それは決して言葉では表現しきれるものではないが、ここであえて説明を担うフレーズを挙げれば、「反逆」「様式美」「暗黒世界」「タナトス」―、これらを音楽で表現するという事に近しいのがメタルと言える。

 “騒音”を美しくギターサウンド化し、中世の音階を進化させたメロディー。破壊的な軌跡かつ計算されつくしたベースライン。バスドラムを2つ使用するという掟破りなスタイルから産み出された、唯一無二の表現力を秘めるドラムプレイ。ハイトーンのシャウトとデスボイス。これらの要素を基底に持ち、様式化された「明確な型」がメタルミュージックにはある。

 これをメタルとはかけ離れた可愛らしい女性3人に融合させる荒技、その点だけでもBABYMETALが起こしたメタルへの挑戦であり、成し得た功績だ。前記の通り、ユーチューブにおける海外ユーザーもその点を評価している。
すず香さん おめでとう! そして、ありがとう!!
 BABYMETALの演奏陣、神バンドと称する「最強のメタル楽団」。
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そして、メンバーのSU-METAL(16)、YUIMETAL(15)、MOAMETAL(15)。
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文句無しの技術と演奏力で展開されるメタルの世界。

 メタルファン垂涎の美メロ旋律ツインギターや、デスボイスのコール&レスポンス。音楽ファンを唸らせるステージングとサウンド。そして、驚く程にシンプルな歌とポップでダイレクトな歌詞。時折混ざる道徳的観念の言葉。

 ライブでは日本のアニメ文化の要素を取り入れた映像がスクリーンで展開される。あらゆる角度からBABYMETALの世界へ入る事ができる。
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海外はアーティストとして高い評価

 「アイドル」と「メタル」。互いに対比されがちな要素が融合され、世界が熱く反応するエンターテイメントとして成り立ち、BABYMETALは国内のみならず世界各国でその名を轟かせている。新たな解釈を作り上げ、そして世界中のファンを熱狂させている。

 ところで、海外ではBABYMETALに対する見方が当初と変わってきている。「アイドル」としてではなく「アーティスト」として高く評価しているのだ。クールジャパンに始まる欧州での日本文化の浸透。その一つでもある「カワイイ文化」や「ジャパニーズポップカルチャー」。

 クールジャパンにみられる、いわゆるカワイイ文化は欧州に限らず米国でも浸透しつつある。例えば、アヴリルラヴィーンが新曲「ハローキティ」の歌詞に「カワイイ」という言葉を多用しているのは有名の話だ。
クランゲ誌 ベビメタ2014クリスマス仕様ポスター
 BABYMETALは前記の通り「アイドル」×「メタル」をテーマに掲げてスタートしたものの、海外では「カワイイ」というカルチャーに融合する異色の「メタル」としての認識が強く、アーティスト性を高く評価している。これが海外で人気を得ている理由なのだ。実際に、前記にも触れたように海外では彼女たちを「カワイイアーティストが繰り出すメタルサウンド」と紹介している。

 日本の「カワイイ文化」、そして「メタル」、更に「音楽性」。いずれも相反する要素ではあるが、ここを果敢に融合させ、純粋に音楽を、ショーを楽しむこと、それを具現化できたからこそ「BABYMETAL」が世界中に受け入れられた最大の要因だ。ヘッドバンキングしながら「カワイイ文化」を本意気のメタルを楽しむ。それがBABYMETALなのである。

  【平吉賢治】